コラム
Column

vol.4:非日常から日常のライフスタイルに

循環型社会構築に向けて拡大するリユースの取り組み

text by 天野路子 (地球・人間環境フォーラム)

リユーストークupdate: 10-03-31

洗浄して繰り返し再使用する「リユース食器」「リユースカップ」の利用が全国各地で広がっている。これまでは、サッカー場やイベント会場など、主に非日常の空間を中心に利用が拡大していたが、最近はフードコートや飲食店などでも導入が進み、普段の生活の一部へと変化しつつある。循環型社会の形成に向けて重要性の高まる「リユース」の活動に関する最新状況を報告する。

 

大小さまざまな会場で利用拡大

甲府、横浜、新潟の三つのサッカー場では年間を通してリユースカップが利用されている。デポジット(預かり金)の有無や、回収方法など、各サッカー場では独自の仕組みで運用しているが、効果的な広報や観客の協力により、いずれも平均して95%程度の回収率を維持している。2009年3月からは等々力競技場(川崎市)でリユース食器(どんぶり)が導入された。サッカー場から排出されるごみの大半がどんぶりやお皿であることから、大幅なごみ削減が期待される。

2008年7月19日〜21日に静岡県掛川市で開催されたap bank fes '08では、イベントで販売されるすべての食器にリユース食器が利用された。開催期間中の3日間にのべ11万2,032個の食器、8万2,504個のカップを利用し、日本で最大規模のリユース食器導入イベントとなった。

他にも、地域のお祭り、学園祭、スポーツ大会、会議、企業の展示会、カフェ、結婚式、ドラマのロケ現場など、大小さまざまな場所でリユース食器・カップが利用されるようになった。

一方で、こうしたリユース食器の利用拡大を支えているのが、リユース食器の貸し出しや、導入イベントのコーディネートを行っているNPOなどだ。当フォーラムが事務局を務めるリユース食器ネットワークには、全国のNPO、自治体、企業などが参加し、リユース食器の普及に努めている。2005年3月の設立時には13団体でスタートしたが、リユース食器の利用数の増加に伴いリユースに取り組む団体も増加し、2009年5月時点で全国42団体のネットワークとなった。

 

既存の洗浄施設を利用してリユース

国際青年環境NGO A SEED JAPANは、ライブハウスでのリユースカップ導入を進める「Live ECO」プロジェクトを2004年春に開始した。全国に1,000店舗ほどあると言われてライブハウスの130店舗(2009年5月末時点)で利用されている。

 

トータルプロシステム株式会社の導入事例

また、2009年3月には、商業施設内のフードコートを中心に飲食レストラン107店舗を直営するトータルプロシステム株式会社が全国101店舗でリユースカップを導入した。従来はビール用とソフトドリンク用に大小4種類の使い捨てカップを使用していたが、両方で使用可能な2種類のリユースカップに規格を統一した。

 

同社は1998年に石焼きビビンバ専門店「あんにょん」1号店の運営を開始したが、代表取締役社長の長田一也氏は、「使い捨てカップのごみが毎日各店舗から1,000個くらい出る。10年前は不燃、可燃の2種類だったごみの分別も年々強化されて、廃棄する際の手間も増えている。また、処理費用もかかることから、なんとかしたいと思っていた」と、リユースカップの一斉導入を決めた。

リユースカップの導入により、昨年は合計217万個使用した使い捨てカップのごみと購入費、処理費用の削減が期待される。さらに、フードコートを運営する施設本体(ショッピングモールなど)がさまざまな環境への取り組みを実施し、利用者の関心も高まる中、リユースカップの導入は施設側の信頼を得ることにもつながったという。また、同じフードコート内にある他の店舗にもリユースカップを知ってもらうことで影響を与えられる。

 

牛めし定食チェーンの株式会社松屋フーズは、ファストフードチェーン店としては、他社に先駆けてリユース箸を導入した。2008年5月に全国697店舗においてプラスチック製のリユース箸を導入し、年間約1億2,000万膳、約530tのごみを削減している。

 

同社では、中国から輸入した割り箸を利用していたが、中国政府が環境保護政策の一環として割り箸の輸出制限を検討していることがきっかけとなり、企業としてごみの削減、二酸化炭素の削減を進めるためにも割り箸を撤廃し、リユース箸に切り替えた。

また、店内に「当店では環境保全への取り組みの一環として、使い捨ての割り箸からきれいに洗って繰り返し使える箸への切り替えをいたしました」というポスターを掲示し、利用者にも協力を呼びかけている。さらに、リユース食器ネットワークに一定期間使用した後のまだ十分に使用できる箸の寄贈も行っており、地域のイベントやお祭りにも利用されることで、さらなる割り箸の削減にもつながっている。こうしたリユース箸の取り組みが認められ、2008年度容器包装3R推進環境大臣賞小売店部門において「奨励賞」を受賞した。

 

地球温暖化の防止のために、企業の果たす役割も重視されているなか、トータルプロシステムや松屋フーズのように、リユースを環境に配慮する取り組みの一つとして積極的に実施する企業が増えてきている。今後は飲食店を事業として展開する企業だけでなく、オフィスや工場で使い捨て容器を使用しているその他の企業でも、リユースの取り組みが拡大することを期待する。

 

低炭素社会に向けた企業の役割として

低炭素社会の構築に向けて、循環型社会の形成が迫られており、リユースの重要性が高まっている。最近では、省エネ家電への導入が始まったエコポイント制度を、3R促進のための経済的インセンティブとして導入しようと、環境省が検討会を設けて議論を開始している。

 

京都では、京都2R型飲料供給システムの構築事業(市役所、大学等でのマイボトルへの中身販売、インフラ整備)が京都市、コカ・コーラウエスト株式会社、NPO法人地域環境デザイン研究所ecotoneなどが主体となり進められる予定だ。

 

エコポイントなどの利用者への積極的な動機づけと、普段の生活の中でも利用できるような仕組みの両方の整備が進むと、リユースの仕組みは容易に受け入れられるだろう。

また、リユース食器ネットワークでは今年から3年間にわたって三井物産環境基金の助成を受け、理想的なリユース食器の開発や、環境負荷の低減効果を調べるためのライフサイクルアセスメント(LCA)の実施、洗浄方法のとりまとめなどを進めていく。最終年度の2011年にはリユース食器フォーラムを開催し、全国でリユースの普及に取り組む団体が一堂に会して情報発信を行う予定だ。

 

使い捨てるのではなく、繰り返し使えるものは大事に長く使用する「リユース」が当り前のライフスタイルになる日が近づいてきている。

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